こんにちは。e-Educationフィリピン担当の秦大輝です!フィリピンの首都マニラのスラム街に住む高校生たちに、大学受験対策の映像授業を提供するために日々走り回っています。
英語がしゃべれない中、チャレンジした一対一のインタビューは前回の記事でご紹介しました。今回はその続きを書き綴りたいと思います。
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最強の助っ人、沖本さんとの出会い
「12月半ばまでフィリピンいますが、何か出来る事はありますか?」
話は、まだフィリピンプロジェクトが公に出されていなかった頃にさかのぼります。僕がフィリピンに飛び立つ直前、10月20日に1通の問い合わせがウェブサイト経由でありました。
それが沖本友香さんとの出会いのきっかけです。彼女は創価大学3年生でフィリピン大学に半年間の留学で訪れていたのでした。
募集していないのに、わざわざ問い合わせをしてくるくらいなので、思い切った行動がとれる活発な人だろうと思っていました。
しかし、マニラに着いて、初めて直接会ったときの印象は意外なものでした。物静かで線の細い女の子という感じで、口には出しませんでしたが「大丈夫かな・・」そんな風に思いました。
最強助っ人との出会いは、こんなふうなあっけにとられるものでした。これ以降、帰国までの1ヶ月半、ミンダナオの調査、マニラでの再出発を一緒に頑張ってくれることになりました。
今度こそ再出発!e-Educationのニーズはどこに?
いよいよ再出発。僕が教育関係者や教育学部の大学生にどのようなプロジェクトが求めれているか聞いて回ったところ、たくさんのプロジェクトの提案をいただきました。
その中でも、“大学受験の支援”はニーズが高いのに、支援がやはり手薄ということが判明。この時点で、映像授業を使った基礎的な教育の支援よりも大学受験のカリキュラムを届けることこそが最も取り組むべきことではないかと思うようになりました。
マニラの前にいたミンダナオの地方都市では、フィリピン大学に入学することができる「地域枠」が一定数確保されているために、大学受験への熱が少ない現状を目の当たりにしたこともあったからです。
今回のマニラ調査では、地方と中心地においてそこまでチャンスの格差が開いていない現状を見ていたので、大学受験支援のカリキュラムが本当に必要とされている場所を見つけようと心がけました。
では、周りと教育格差があって、本当にe-Educationを必要としている生徒はどこにいるのか?
データを取ってしっかり検証してみよう。ただいくらインターネットで検索しても、大学受験の情報は見つからないということで、自分たちの手でデータを集めなければいけないという結論に達しました。
沖本さん、100人にアンケート取ってきて
僕は教授などのアポイントや、ニーズ確定後に実際に授業を見せてトライアルの準備、また大学受験以外の可能性も探ってみたいという事情があり、どうしても時間を割く事ができない状況でした。
そこで、この骨の折れる任務を沖本さんに無茶ぶりしてみることにしました。
「ということで、沖本さん。100人にアンケート取ってきてほしいんだ。明後日までに。」
「え!?・・・うん分かった・・」
ミンダナオで手分けしてキャンパスにいる学生100人に飛び込みでインタビューしていた経験もあったので、仕事はイメージできていました。
フィリピン大学の学内のベンチに座っている学生に、いきなり背後から声をかけてくる日本人。あやしいという言葉以外なにものでもありません。そして100人に向けてどんどん聞いていく。正直断られたりすることも多かったので、僕にとってもキツい仕事でした。
だけど、戸惑ながらも「やる」と言ってくれた沖本さんを信じ、アンケート調査を任せました。
アンケートの結果で見えて来たニーズ
「100人アンケートの調査結果をまとめたので、送るね!」 3日後、調査のデータが送られてきました。
そこに書かれていたデータは以下の通りです。
- フィリピン大学は国立なので、学費が安く低所得者でも通える
- 首都マニラ出身者と地方都市の出身者の割合は半々で、地方出身者を一定数確保する制度が整っている。
- 首都マニラの合格者の大半が私立高校などお金持ちの通う高校出身
- 首都マニラは予備校に通う生徒が多く62%が利用。しかし学費が高く低所得者は通えない。
- 地方都市の予備校利用者は少ない。
アンケート調査を踏まえ、マニラから遠い地方都市と首都のフィリピン大学入試における教育格差は少ないということがわかり、マニラ付近では所得によって多くの教育格差が存在しているということも分かりました。
「マニラ付近では受験対策のコンテンツが求められている可能性が高い」
バングラディシュでは首都付近の田舎でニーズがあったので、フィリピンでもそこに住んでいる学生の大学受験支援のニーズがあるのではないかという仮説ができました。
それじゃあ田舎に行ってみようか!
実際の現場の声をすぐにでも聞きたい、でも時間がない。そして再度、沖本さんに無茶ぶりを。
「ということで、沖本さん、田舎にニーズがあるか現地を見てきてほしいんだ。時間も迫っているし、明後日までに」
「え!?・・・うん分かった・・」
安全に田舎に行って調査をしてもらうために、マニラの近郊の農村部で学校と連携して活動しているNGOにアポイントをとりつけて、同行してもらう必要がありました。もちろんNGOのコネなんかありませんので、ひたすら電話をかけ、やっとのことでアポイントを取り付けました。
高まる期待と同時に募る不安
沖本さんと一緒にマニラから4時間離れた農村部に向かって出発したのはその4日後のことでした。視察の内容は農村部のいくつかの高校を回り、校長先生や教員や生徒にヒヤリングをして本当に必要なのかニーズを2日かけて見極めるというものでした。
「マニラの都市部と近郊の農村部の教育格差を埋めるプロジェクト」
これはインタビューや100人アンケートを基にした仮説で、1番有効でやるべきプロジェクトではないかという考えがありました。今回はその最終確認の意味を込めての訪問でした。
そして、ほとんどニーズがあるだろうと確信していた僕は、約束していたインタビューをしながら、ヒアリングで知り合った友人のネットワークを使って、トライアル用のDVDコンテンツ作成を進めるべく進学校の先生への出演依頼に飛び回っていました。
いよいよトライアル授業の実施だ。そう思いました。
緊張の報告、現地ニーズはあるのか・・?
3日後、田舎でwifiが通じない状況で連絡の取れなかった沖本さんのアンケート調査報告を直接聞くために、待ち合わせのアテネオ大学前のいきつけのカフェにいました。
沖本さんがアンケートを取り続けていた3日間、僕はトライアルの準備に向けて動き出していました。田舎でのプロジェクト実施について不安はあったものの、沖本さんから良い調査報告が聞けることを信じて、できる準備を進めていました。
期待と不安でいっぱいだった待ち合わせ。約束の時間、窓際の席にいた僕は沖本さんがこっちに歩いてくる姿を確認しました。あまり浮かない表情をしていました・・
カフェに入り、席についた沖本さんは下を向いてこう言いました。
「ニーズなかった・・田舎は・・」
不安が現実のものになってしまい、かなりショックを受けました。それでも報告をしっかり聞こうと立て直し、少し間をおいてアンケート調査の詳細を聞きました。
話を聞いているとその理由が明らかになってきました。
田舎の学校をいくつか訪問したところ、どこの高校も受験熱が高くなく、優秀な子でも近くの専門学校に進学し地元で職を探していたのです。つまり、都市部の有名な大学を受ける生徒はほとんどおらず、大学受験の競争で都市部の予備校に通う生徒と戦うことはないという状況だったのです。
マニラからすぐそばの田舎とはいっても、こうも状況が違うのか・・・。マニラ近郊の田舎の学生にとって大学受験支援はあってもいいけど「別に心から求められているわけではない」ことが分かりました。
教育に詳しい大学生や教授から「ニーズはきっとある」と聞いており、ある程度自信があったので、何か裏切られた気持ちになりました。
ヒアリングをしたみんなは、全然言ってること違うじゃんか・・ついつい八つ当たりしたくなりました。全部他人のせいにして放り投げたくなる気持ちを抑え、今出来ることを考え直しました。
迫りくる期日にどうしようもない焦り
11月18日、ミンダナオ島で大学受験プロジェクトの立ち上げを諦めたとき、日本にいる副代表の三輪と約束をしました。
「12月14日までにニーズを探し、トライアル授業を実施してやるべきかニーズが確信できなかった場合は、マニラから撤退します。そして日本に帰ります。」
立ち上げから授業実施に要する時間の関係で、最終的な締め切りをその日にもうけていました。
このまま撤退なのか・・。
「自己満足になるプロジェクトはしない」と心に決めていたので、生徒のニーズが見えないままプロジェクトを立ち上げることは絶対嫌でした。でも、このまま撤退するのも納得がいかない・・。焦りと不安が僕を支配していました。
約束の日まであと2週間を切っていました。
「沖本さん、どうしようか・・」
マニラの夕暮れがいつもより暗く見えました。(続く)
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